I ♥ Wolves

私は確かに「オオカミ大好き」系なのですが、興味を持ったきっかけが、実は「世間のイメージと実態にギャップがありすぎる」ことでした。なのでこのコーナーでは、皆さんのオオカミに対するイメージを払拭するつもりで、オオカミについて紹介しています。

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オオカミと人との関係 ――言わせてください、赤ずきん伝説は「真っ赤な」ウソです!

ところで、オオカミに対するイメージといえば「人を襲って食べる」ですよね。赤ずきんちゃんはまさにその代表格です。子どものときに家族に読み聞かせしてもらったり自分で読んだりして、森の中には恐ろしい動物がいるものだと震えあがったことでしょう。他にも狼男伝説では、満月の夜に大人しい男性が突然毛むくじゃらの化け物に変身して人間を貪り食うという設定はホラー映画の定番ですね。
しかし、それは本当でしょうか。現在の研究で明らかになっていることは、「オオカミは人との接触を避ける」ということです。人がオオカミの縄張りに侵入して襲われる、ということは実際はありません。
皮肉にも、現在EUではオオカミの保護に力を注いでいます。オオカミの自然界での役割をEU側も理解し、オオカミ害獣視の発祥の地で世界に先駆けてオオカミの保護を行っています。その上で、最近ドイツでもオオカミが復活してきているのですが、人身被害は起きていないどころか、オオカミがいることすら知らない住民もいます。ヨーロッパには原生林がほとんどなく、あるのは人工林です。その上森の面積も狭く、田園地帯が広がっています。オオカミはそういった田園地帯や風力発電所にもいるそうなのですが、ほとんど目撃されないそうです。昼間人間が活動する間オオカミは身を潜め、人間がいなくなった夕方から活動を始めるといった、時間的な住み分けをしているのです。ただ、オオカミが復活したことで家畜の被害も発生しており、オオカミ保護に強く反対している牧場主なども少なくありません。それでも、人身被害はないのです。

では何故人を襲うと思い込まれているのでしょう。その理由はいろいろあると思いますが、やはりおおもとは家畜被害が起きているヨーロッパで、オオカミを害悪視する感覚の延長線上恐ろしく言われているのだと思います。自分たちの生活の糧として大切な家畜を奪われることは、生活を脅かされるのも同然です。またキリスト教では信徒は羊として表現されるため、羊を襲うオオカミは他宗教の野蛮な侵略者とぴったり重なりました。
(けれどオオカミからしてみれば、人間に逆襲されるリスクを犯してまで家畜を食べたいと思うでしょうか。警戒心の強い臆病な性格で、普通ならそうは思わないはずです。自然界で得られる獲物が少ないから、家畜を襲うしかないないのです。人間が広大な牧場を確保するために森を伐採した結果、オオカミは獲物を失い、家畜に頼るしかありませんでした。そういった自分たちの行動も顧みず、人々は自分たちに起こった被害を全部オオカミに擦り付けているのです。またキリスト教では自然を人間の下に見る思想があるため、そういった考え方は正当化されました。)

それともうひとつ、オオカミが人を襲うと思い込まれている理由には、野犬との混同もあると私は考えています。
これは日本での例ですが、実は日本でも、「オオカミが人を襲った」という記録は古来からあります。有名なところで言えば、もともと日本になかった狂犬病が江戸時代に日本に持ち込まれ、多くの「狼」が人を襲った事件です。またそれ以前、平安時代にさかのぼっても頻繁に「狼」が人里に来て子どもを捕食したという記録があります。
大抵の人はこれを読めば、やっぱりオオカミは普通に人間食うじゃん、怖いじゃんって思うはずです。でも、私はこの内容が真実なのか、本当に、あのニホンオオカミがわざわざ山から下りて人間を襲いまくったのか疑っています。
というのも、実はニホンオオカミに特異な話として「狼」と「山犬」の二つの呼称があります。江戸時代までの「狼」とされる動物の絵には、白黒の斑があるのものもあります。これは昔の日本人が、家庭で飼育されていない野犬や野良犬、ニホンオオカミを「狼」または「山犬」と括っていたということです。
また、昔の犬は現代のように飼い主がしっかり管理していたわけではなく、ほとんどが特定の飼い主がいない状態で徘徊していました。そして自然界ではオオカミの数は常に一定であるのに対し、犬は人口の10%程度いました。
以上のことを踏まえると、狂犬病になって人を襲った動物の大半は、ニホンオオカミではなく野犬や野良犬である可能性が高いと考えたほうが妥当ではないでしょうか。勿論、狂犬病にかかったオオカミもいたでしょうが、そんな大事件として記録されるほど、野生のオオカミが日本人に猛威を振るったとも思えません。
また、日本以外での家畜被害についても、家畜を襲うのはオオカミだけとは限りません。野犬が家畜を襲うこともあります。しかし、犬の場合は「人に飼いならされた動物だから」と、捕食者としての能力を過小評価され、犯人として認知されにくいところがあります。
野生のオオカミはとても警戒心が強く、臆病なため、滅多なことで人に近づくことはありません。しかしイヌの場合は、人間と関わってきた歴史が長いため、人に対する警戒心も薄く、その分脅威となる可能性が高くなります。
昔の人は野犬とオオカミの区別が曖昧だったため、とにかく人間にとって脅威となる恐ろしいイヌ科の捕食動物は「狼」だと思い込まれていたのかもしれません。

ただし、ならば本当のオオカミは100%人を襲わないんですねというとそれは違います。
過去50年間でヨーロッパで明らかにオオカミによるとわかる人身被害は9件起きています。その原因は「人馴れ」と「狂犬病」です。日本の江戸時代のことはともかく、狂犬病にかかってしまえば事実オオカミは人を攻撃します。(但しオオカミは狂犬病の保菌者ではありません。)また人が餌付けをすることで人を恐れなくなったオオカミが人を攻撃することがあります。これはヨーロッパのオオカミに限らず、日本でのサル、イノシシ、クマなどの人身被害においても同様のことが起きています。
その他の事例としては、北米でとある女性がオオカミの群れに襲われ食い殺された事件があります。これは事件当時天気は吹雪で、視界が利かないところをランニングをしていた小柄な女性が間近にオオカミの群れと遭遇し、パニックに陥って逃げ出したところを狩猟本能を刺激されたオオカミが襲った、というものでした。(後程その群れは駆除されました。)
とはいえ、オオカミによる人身事故は他の野生動物や、イヌを含めた家畜による被害に比べれば圧倒的に少ないのが現状です。映画や伝説で知るようなオオカミ像は基本間違っていると考えてよいでしょう。

一部では「昔ヨーロッパに生息していたオオカミは今のオオカミより凶暴で、人々が駆除した結果大人しいものだけ生き残った。何故なら現在ヨーロッパ以外の貧しい国では度々襲撃事件が起きている」という主張がありますが、これもあくまでオオカミ凶暴説を正当化したいものだと私は考えます。実際のところ度々あると言っても統計的にどの程度起きているかわからないし、貧しい地域であるなら教育が行き届かず、野生動物との正しい接し方ができていない場合もあるでしょう。これまで説明してきたとおり、狂犬病、人馴れの可能性はなかったか、遭遇したときパニックを起こしてオオカミを刺激する行動をとらなかったか、そういった冷静な判断もなしに「人を襲ったから凶暴だ」と考えるのは短絡的だと言えるでしょう。

【追記】
このページに執筆するに当たり、私は様々な文献を参考にしてきましたが、その中である傾向を見つけました。それは、オオカミを危険で獰猛だと主張する人は概ね古い文献を引用したりごく稀に起きた人身事故にこだわっていたりするのに対し、オオカミを臆病で賢い動物だと主張する人は実際にオオカミと関わりその生態を調べています。実態を知らないで人の話や報道を鵜呑みにして「怖い怖い」というのはどうなんでしょうか。
こういった態度は、何もオオカミに限らないのではないかと私は思います。例えばよく知らない外国人や移民たちに対して、実際に本人たちと関わろうとしないで噂や事件のニュースを真に受けてしまい、「●●人は怖い」と考え差別するのと同じだと思いませんか。
事の真実はやはり実際に関わりを持ち、実態を自分たちの目で確かめることでしかわからないのではないでしょうか。オオカミについて知るということは、私たちに人の話を鵜呑みにすることの危険性を教えてくれるような気がします。

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